【ワトフォード 対 アーセナル】

今月15日に行われたワトフォード戦。


結果はご存知の通り敗戦で、非常に勿体無い試合をしてしまったのですが、内容には濃さがあったと思うので気持ちを整理する事も兼ねて、この一戦を纏めてみます。


スタメンはこちら。


アーセナルはドイツ代表で負傷したムスタフィと、ナショナルチームがW杯予選で敗退した事によってメンタル面を落ち着かせるための休養が与えられたラムジー・サンチェスが欠場。


一方ウェルベックがスタメン、エジル・コクランがベンチ入り+メルテザッカーが久し振りのリーグ戦先発と嬉しい材料も。


このスタメンを見て試合前にポイントとなりそうと思ったのは、イウォビ・エルネニーの所。ブライトン戦の縦中央固執攻撃から、どのような変化があったのかを個人的に注目していた。


ワトフォードについては、試合を追っていないので言える事がありません。この試合の解説によると、3CBシステムはアーセナル対策として用意して来たものだとか。




・ミラーゲームによって得られた優位。

この試合の前半はシステムが3-4-2-1同士のミラーゲーム。基本的な噛み合わせはこうなっていました。↓↓



まあ、至って普通ですね。しかし、ワトフォードがこの試合初めて3CBシステムを起用するのに対して、アーセナルはこれが基本システム。更にアーセナルは、チェルシーやボーンマスらを相手に似たようなミラーゲームを経験しています。当然、練度や戦い方の幅で違いが出てきます。

それを図で振り返ってみましょう。


・ワトフォードのビルドアップ



局面はワトフォードのビルドアップ。3CBの中央を務めるカバセレが右のマリアッパへボールを展開しようとしている所。


アーセナルの選手達はそれぞれ相手選手を捕まえていて、同数プレスを掛けるタイミングを伺っています。



そしてマリアッパへボールが渡ると同時にプレス開始。ウェルベックがハーフスペースの選手へのパスコースを制限し、ラカゼットがカバセレへのリターンの選択肢を遮断。当然CHの選手はジャカ・エルネニーが捕まえているのでそちらへパスを出す事も難しいです。


こうなってくるとマリアッパに出来る事は…


ロングボールで逃げる事くらいですよね。


この日のアーセナルのCBはメルテザッカーです。ここでの空中戦は完全にアーセナルに優位があり、序盤はロングボールが直接ワトフォードの攻撃の形に繋がる事は殆どありませんでした。(セカンド回収からのチャンスは少しあった)


そしてワトフォードはビルドアップで20分近くまでこのようなプレーを繰り返してしまいます。理由は恐らくミラーゲームの圧力・間合いに慣れていなかったから。


相手のアプローチが速く、パスの出し所も、プレスを外す技術も無い。で、ミスしたら失点直結してしまうって状況がワトフォードのCB陣に逃げの選択をさせるように追い込んでいったのでは無いかな〜と。


これは想定外だって事がブリトスが似たようなミスをした後のマルコ・シウバ監督の表情から読み取れます。



前半20分辺りからはペレイラがCH脇に落ちてモンレアルを食いつかせる等工夫をするようになります。



それによってメルテザッカー脇を使えるようになり、ロングボールが直接、攻撃の形に繋がるようになります。
これは後ほど紹介するアーセナルの方もビルドアップに取り入れている形で、ビルドアップのパターンを他にもいくつか保持していればとても有効的なモノになるのですが、ワトフォードにはこれ以外にビルドアップの定石が見当たらず、攻撃の幅を広げられていませんでした。


これらとアーセナルのビルドアップの場面の一連の流れを比較してみましょう。

・アーセナルの後出しじゃんけんビルドアップ



局面はコシェルニーが相手2-3列目間で間受けを狙うイウォビに楔を打ち込んでいるところ。


ここでまず違うのが守備側の陣形。アーセナルが相手CB同士のパスが同数プレス開始のスイッチ!と基準をハッキリさせていたのに対し、ワトフォードはいつプレスをかけるか?という基準が曖昧で整備されておらず、「さっき似たような場面で同数プレスを仕掛けたのに、今回は5-4-1でセットするの?」と言いたくなるような場面(逆も然り)が序盤だけで何度かありました。


で、ここでのワトフォードは5-4-1でセットする守備を選択しています。


間受けで相手を複数人食いつかせてWBをフリーにする恒例のパターン。

思ったより相手に動きが無くこのままでは攻め手が無いため、ベジェリンはやり直しを選択します。



ここで次のギミックが直ぐに作動するのがアーセナルの強みの1つ。再びイウォビが間受けを狙います。

先ほどそのプレーをやられたばかりなので、当然ワトフォードのCBはここを潰そうとイウォビに意識が傾くのですが、、、



それは囮。チェルシー戦でアスピリクエタにやったように、その裏をラカゼットが狙ってるんだよ〜んと。(このスルーパスはゴメスにキャッチされますが、アーセナルのダイレクト攻撃によるラカゼットの裏抜けを相手に意識・警戒させる事自体に旨みがあるので、繋がればなお良しだけど、失敗したとしても大きな問題では無いよん。)


次の場面でもそう。


局面はジャカからベジェリンへボールが展開されたところ。先程と同じようにワトフォードの左CBに間受けを警戒させて、ラカゼットが死角から裏へ飛び出すよう設計されています。



スルーパスが通ってラカゼットは完全にフリーでペナ角侵入成功〜。(図の書き方が下手な影響で、パスが長すぎた事によりゴールキックになってしまったみたいな展開に見えるけど、ラカゼットはちゃんと間に合ってクロスまで持っていきました😅)


…と言うようにアーセナルのCB・WBの選手はとてもクレヴァーで、相手の状態を見て、プレーを変更出来るインテリジェンスと技術を兼ね備えています。で、彼らにチームで2つ3つの選択肢を持たせる事によって常に相手に後手の対応を強いる事が出来るんですよね。


彼らを保持している+彼らを活かす仕組みが整っているアーセナルと、ロングボールのみのワトフォード。やはりビルドアップでは大きな差があったように感じました。


少し話が逸れますが、ラカゼットのラインブレイクはマジで絶品。最初はオフサイドポジションや相手の死角にポジショニングしてマークを外す→パスを呼ぶ→味方がキックモーションに入るタイミングでバックステップを踏んでオフサイド回避→フリーで裏抜けって流れが本当っにスムーズ。クリスティアーノロナウドがよくやる動きね。


大外で相手最終ラインが丸見えにも関わらずオフサイドに引っ掛かってしまうブリティッシュの皆さんには是非参考にして頂きたい😁


話を戻します…。そのアーセナルのダイレクト攻撃がワトフォードに与えた影響・旨みは直ぐにピッチ上に表れます。



局面はアーセナルのビルドアップでナチョがボールを保持している場面でワトフォードが同数プレスを仕掛けているところ。

前のプレーの影響でウェルベックがオフサイドポジションにいる所以外はシステム通りガッチリ噛み合わせが出来ていて、前方へのパスコースは見つかりません。(先程のマリアッパの場面と少し似ている)



メルティ経由で逆サイドへの展開・やり直しを図りますが、それはグレイの妨害によって不可。

よって、普通の選手ならボールを繋ぐには一旦チェフ使って陣形を整えるしか選択肢が無いという状況なのですが、スーパーナチョさんは違うんですよね〜。


メルティとのパス交換によって得た時間で首を振って前の情報を取得し…




ワンタッチで1列飛ばしたこの楔。

メルティとのパス交換は最終ラインで深さを作って全体の縦幅を広げ、ウェルベックがパスを受けられるスペースを作る+ウェルベックがポジションを戻す時間を得るためのモノでもあったのか…と考えるとこの人の頭の良さがわかると思います。


最初に狙っていたモノが妨害されても、状況を把握して直ぐ2つ3つの解決策を見つけられる。それでいて優先順位を見誤らないという、インテリジェンスの塊ことナチョ・モンレアル。

まあこれも、ウェルベックが降りる事やその後ジャカがレイオフの選択肢を確保する事等、チームでの仕組みが機能していたから出来た事。継続が大切だね。


で、焦ったワトフォードの二列目がウェルベックに食いついたので先述の通りフリーになったジャカへレイオフ。

ワトフォードは同数プレスを仕掛けるためにかなり重心を前に傾けていたため、SHが戻り切れずCH脇がスカスカに…。これがカバーリングを用意出来ない同数プレスのデメリットね。



当然、イウォビが間受けでそこを突きます。これでワトフォードの最終ラインは晒された状態となってしまいました。


…と今までの過程でワトフォードの守備に問題が起きている事がわかります。「最終ラインが低すぎる事」ですね。(言わんでも知っとるわアホ!って人も居そうだけどw)


ボール奪取のために前プレを仕掛ける時は、陣形をコンパクトにして相手に空間を与えず窒息させる事が基本です。


しかしワトフォードは最終ラインが低いため、中盤と最終ラインの間でウェルベックやイウォビに空間を与えてしまい、アーセナルにボールの落ち着かせ所を作られてしまっています。


その最終ラインが低くなっている原因は?というと…お察しの通り先程のアーセナルによるダイレクト攻撃の影響ですね。


図で簡潔に説明すると、


CB A 「ラカゼットが死角にいてボールと同一視野で捕えられないっす」

CB B 「しかもコンニャロ、オフサイドに引っ掛からないすよ」

CB C 「アーセナルはどんどん裏を狙ってきてるっす。ラカゼットに裏取られたら俺達追いつけないっす」

CB一同 「よし、ラインを下げよう」


CB一同 「ふう〜これならラカゼットがどう横に動いても視界に入って一安心」


が、中盤との絡みを大切にするアーセナルのアタッカー相手にこのスペースを与えてしまうのは致命的で、先程の場面のような形になっていったって流れ。


当然、ワトフォードはこの2-3列目間のスペースを埋めなければなりません。しかし、アーセナルのダイレクト攻撃の影響で最終ラインを押し上げる事は難しい。よってワトフォードは2列目の選手、つまり5-4-1の4の選手達のラインを下げてアーセナルの間受けに対応しようとします。
勿論これはアーセナルに与えるスペースの位置を変えただけの対策なので、ボールを奪う事は相変わらず難しい・ボール奪取のラインが低くなるのだけれど、最終ラインが晒され続けるよりはマシだろうと。


それによってアーセナルは、、、



ワトフォードの1-2列目間でジャカ・エルネニーがスペースを得られるようになります。


ダイレクト攻撃で裏を警戒させ最終ラインを牽制→間受けで空いた2-3列目間を使い相手の2列目を後退させる→相手の1トップが孤立した事でプレスが機能しなくなりボール保持が安定


という教科書通りの丁寧なアーセナルの【前プレ殺し】のビルドアップでした。

これ以降、前半のワトフォードは5-4-0-1のようなシステムでの守備を強いられる事になります。



ジャカ・エルネニーにCHが引っ付いてた最初の守備陣形と比べると、アーセナルのロジックが如何にワトフォードの陣形を崩したかがわかりやすいですね。


・ファイナルサードでの崩し方


相手の前プレを攻略し、ビルドアップが安定したとなれば当然ファイナルサードの攻略が焦点に当てられるようになります。

そんなアーセナルの今日のテーマは【横幅確保からハーフスペースのCHを使ってゾーン崩し】



まずは先程の場面(前半11分59秒)の攻撃の続きから振り返ってみましょう。


局面はアーセナルの攻撃、左の大外にいるウェルベックがハーフスペースのジャカへボールを預けた所。

ワトフォードのMFドゥクレがジャカへ圧力を掛けに行きますが、間受け職人イウォビがいる状況でそのゾーンを空けては、まあ楔を打ち込まれるよねと。



複数人自分に食いついたので、イウォビは後方のフォローに動いてくれたエルネニーにパス。このエルネニーに圧力をかけに来たのはリシャルリソン。

アーセナルのスペースで受ける→食いつかせる→パス→スペースで受ける→食いつかせる→パスの流れがワトフォードのゾーンのズレを生み出していました。


SHの選手がこんな所にいては、サイドにスペースが出来るのは必然でしょう。エルネニーもそれを理解してボールを右サイドへ展開します。




エルネニーのパスが少し後ろに逸れた事とイウォビが左に出張していて本来のポジションに戻るのに時間が必要だった事が原因で、少しのタイムロスが発生。


数的不利になり右サイドで攻め切る事は難しくなってしまいました。


しかし、今までの過程が無駄にならないと言うのが横幅を使って揺さぶる攻撃の良いところの一つ。

エルネニーが既にフリーランで相手を食いつかせてそれを演出しています。




ベジェリンは中央へリターン。エルネニーのスペースメイクの影響もあってこの場面でもジャカは相手の2列目の前でスペースを得られています。


ここで注目して欲しいのがワトフォードの選手達の視線と、アーセナルの選手との位置関係。




ワトフォードの殆どの選手がボールウォッチャー。一体何人の選手が味方やアーセナルの選手の配置へ意識を向けられているでしょう。


これは、

・ジャカがミドルの射程距離内でフリーでボールを保持している事。(得点に直結する可能性があるのでボールから視線を切れない)

・アーセナルがボールを横に動かし続けて揺さぶった事。(常にボールの配置・角度が細かく変わるため、ワトフォードの選手達の意識の矛先がそちらへ向かう割合が高くなり、周囲への集中力が削がれた)


この2つの条件によって生まれたモノです。


これだけ相手の視線をボールに釘付けにさせて、マークを外している選手を作り出せば、崩し切れるのはもう目に見えてます。


ただ、関節視野でなんとな〜くアーセナルの選手の配置が分かっている輩がいる可能性もあり、ここからでは角度的に中央の味方へ直接パスを入れる事は難しいです。


だから次の1手は攻めに出つつも、攻撃の角度を変える事が重要となります。




はい、ジャカ大正解!大外のコラシナツを使って相手に首を振らせるピンポイントパス。


ワトフォードの選手達は先程からボールウォッチャーだった事に加え、ジャカのパスに90度首を振らされた事によって、周りの状況が把握出来ておらず、マークやゾーンを埋め切れていない事が顕著に表れています。


ここでのアーセナルが得点出来そうなポイントは3つ。

①→ウェルベックエフェクトを除けば得点の確率が最も高いポイント。クロス→シュートのまでの時間が非常に短いため、GKはタイミングを取り辛い。また、シュートが流れたり、GKが弾いたりしても角度的にピッチに残る可能性が充分あるため二次攻撃にも期待出来る。だからゾーンディフェンスではまずここを防ぐ事が基本なのだけれど、アーセナルの攻撃によってそれが崩れていてウェルベックが完全に相手DFの前に入れてますよと。ビックチャンス。


②→①でウェルベックがニアに突っ込んだ事により出来たスペース。①と比較して、この位置から腰を捻ってシュートを撃つのは少し難易度が高くなるけれども、幸いシューターがラカゼットなので①と得点の確率はそんなに変わらないかも。


③→ベジェリンの走り出しが少し遅れている事+彼の身長を考えると上2つと比較すると得点率は少し劣るかもしれないが、ワトフォードがフォア・ファーサイドのゾーンを全く埋め切れていないため、事故等も含めて得点出来る可能性は充分に高い。(少し話が逸れるけど、ここでゴール前に突っ込まずに歩いている所がイウォビの得点が少なく、シャドウとして物足りなさのある所以なんだよな〜。お隣のデレアリは勿論、この間のELの時のようにウォルコットもこのスペースは絶対に感知する。)


コラシナツがクロスを引っ掛けてしまい、得点には至りませんでしたが、充分にチャンスに繋がる形が作れていると思います。



で、このアーセナルの攻撃の過程を振り返ってみると、殆ど横パスによって作られた攻撃で、「リスクの高いパスが1度も無い」という事がわかりますよね。


セーフティなパスの連続がボクシングでいうジャブのように効いていき、ワトフォードの守備陣形をボロボロにしています。
カウンターを受けると脆さの出てしまうアーセナルにとって、引いてくる相手に対してボールを失う機会を減らす攻撃は理にかなっていると言えるのでは無いでしょうか。


少なくとも、


6-3-1の中央圧縮の相手に中央突破に固執した攻撃を仕掛けて、カウンターを受け続けていたブライトン戦よりは10倍マシだと思います。


まあ何が言いたいかと言うと、「エルネニーはセーフティなパスが多い=相手を全く崩せない」みたいな認識や批判は不当だよね、と。


そしてここからアーセナルの攻撃はこの「横幅→ハーフスペースのCH」の形でやりたい放題やっちゃいます。その形をダラダラと紹介してみます。

まずは基本的に攻撃で最も優先順位の高いミドルシュートから。




方法は至ってシンプル。大外のベジェリンがボールを保持したタイミングで、ウェルベックやラカゼットと言った選手達(この時はウェルベック)が相手の二列目を引っ張って〜の…


フリーになったエルネニーがブロック外からドッカン。

勿論これは相方のジャカも得意としています。



局面はアーセナルの攻撃、セカンドボールを回収→イウォビが間受けでリンク→ジャカに展開されたという所。

相手の守備組織が整っていないため、ウェルベックの前方にスペースが出来ている模様。


ジャカ「こういうフィードは任せんしゃい。」

と言わんばかりのロングボール。グラウンダーで回転を掛けて、ウェルベックがトラップするタイミングでパススピードが減速するようにしてるのがまたたまらん。




ここでトライアングルを形成。バイタルでフリーでボールを受けられるとかなり危ないため、フレッチャーはイウォビへのパスコースの制限に動きます。

しかし、1辺を塞いだらもう片方の辺が空いてしまうと言うのがトライアングルの理。




当然ジャカがミドルシュートを撃つには充分のスペースを作れるよね〜と。


数分後にも全く同じようなシーンが見られました。


このシーンは最初のところで、コラシナツがオーバーラップによって相手DFの重心を引き付けている事がミソ。


で、これだけブロック外からの攻撃でも形が作れる事を見せると、それを警戒して単独でのケアや先読みで動こうとする選手がワトフォードに出てきます。


勿論それは組織として連動していないため、ゾーンの穴にしかなりません。そういう穴を突いた攻撃がこれらのシーン。



局面はエルネニーからパスを受けたジャカがウェルベックの前方にロングフィードを送り込もうとしているところ。


もうこの時間帯はこのエリアでもワトフォードがアーセナルのCHにプレスをかけ切れていない事がわかります。


ウェルベックのタメから、コラシナツのフォローを経由してボールがジャカに渡ります。

ここでフレッチャーはミドルシュートを撃たれることを危惧してか、ジャカへアプローチを仕掛けます。

しかし、アーセナルはここでもトライアングルを形成しているため、そのアプローチを外すのは容易い事です。


はい、ゾーンの穴発見!って事で縦パス。


最後はラカゼットのポストプレーが乱れて攻撃が終わってしまいますが、事前にラカゼットの位置を確認していたウェルベックと"トントン"のリズムで崩したかったというビジョンが伝わって来ますね。


「外を使うから中央が攻めやすくなる。」というアーセナルの横幅を使った攻撃の本来の目的が達成されています。


じゃあ、あの攻撃の停滞感は何なの?」とお思いの方。


それはCHや横幅を使った攻撃に問題があるのではなく、恐らく「前線3枚の役割が一つズレてしまっている事」が原因だと思われます。

例えばこのシーン。



局面は右サイドでベジェリンとイウォビが攻撃を探った後、ジャカへボールを渡して攻撃のやり直しを図ったところ。

この場面、今まで外→外の揺さぶりの回数が多かった影響で相手SHが先読みして前に出てきているのがわかりますね。(外を使うから中央が攻めやすくなるというヤツの典型的な例。)

絶好の間受けのチャンスです。



がしかし、ここで受ける事になるのがシャドウの選手では無く本来フィニッシャーに置いておきたいラカゼット。ここがアーセナルの攻撃に停滞感のあった理由です。


陣地回復や前プレでの貢献度が高いウェルベックですが、CHから縦パスを引き出す事はかなり苦手なんですよね。(まあでも、"とにかく全力ダッシュ!"だったユナイテッド時代からは物凄く改善された。ウェルベック自身もその課題に気付いているっぽく、克服しようとしてるんやな〜と思わせるプレーも多い。)


ウェルベックがパスを引き出せない→横幅の組み立て+プレアシスト(アシストの前のパスの事)を担うCHと裏取りが上手いフィニッシャーを結びつける"アシスト役"が不在→ラカゼット自身がCHからボールを引き出さなければボールを貰えない→フィニッシャーのいるべき位置に誰もいない→選択肢が少なく攻撃のギアを上げれない。

という流れが停滞感を生んでいったのではないかなと。



多分、シャドウがボールを保持して、ラカゼットにはこの赤丸の位置にポジショニングしてもらうってのが理想。


そこから相手の最終ラインと駆け引きをしながら、ボールを持っているシャドウからスルーパスを引き出したり、逆をついてワンツーで決定機を演出したり…ってのをラカゼットもファンも望んでいると思うんですよね〜( ̄▽ ̄)


勿論ラカゼットが下りてパスを引き出す事自体は悪い事では無いですよ?そのスペースを他の選手が使えるシステム…それこそ昨季爆発したサンチェスが下りてウォルコットが右から走り込むといった0トップシステムのメカニズムみたいなモノがあれば、相手DFにまた違った恐怖を与えられますから。


しかし右シャドウに入っているイウォビの動きには全くその様子がないです。よってラカゼットには選択肢が無く、相手DFは背後のケアを頭に入れて置かなくて良いため、


このように思いっ切り前に出ていってタックルを仕掛ける事が出来ますよ〜と。


これによってアーセナルは攻撃のギアアップのチャンスを尽く逃してしまうんですよね。CHでは無く、シャドウとCFの関係の問題。


個人的には、この時間帯のアーセナルにエジルがいたら攻撃面ではほぼ完成された形が見られたのではないかと思ってます。

CHとフィニッシャーを繋げる、間受けからのスルーパスってのはエジルの十八番でしょう。


「後半エジルが入ってから逆転されたじゃないか!何を言ってるんだ!」と思われるかもしれませんが、あれはエジルの存在より後ほど説明するワトフォードのシステム変更の影響が大きかったように思えるので。



・先制点までの流れを振り返ってみる。


局面はアーセナルの攻撃、コシェルニーからイウォビへパスが入ったところ。

大外でボールを保持し、トライアングルを作ってハーフスペースのCHを浮かせるという恒例のプレー。(ここでもサイドのフォローに向かうのがラカゼットと、役割がズレてしまっているのがわかる)



で、間受け狙いで相手CBを釣り出して、その裏をイウォビが狙い…



そこへフリーとなっていたジャカからの高精度フィード!でコーナーキックを獲得し、それをメルテザッカーが決めるという流れでした。

確かにセットプレーでの得点は、相手の守備を完全に崩したモノではありませんが、定石通りのプレーでそれを得たという過程は評価出来るモノだと思います。


ちなみにジャカ、個人的な前半のMVPです。横だけでなく縦の幅の確保やミドルシュート、外を意識させておいての楔の打ち込みとまさにアーセナルの心臓でした。




・後半の動きについて。


後半、立ち上がりは両チーム共システム・メンバー変更は無く内容も前半とさほど変わっていませんでした。違いを上げるとすれば、ウェルベックに疲れが見え始めた事か。それによってアーセナルはラカゼットをサイドに落としたり、プレスラインを少し下げたりといった調整を行っていました。

大きな変化があったのは後半15分から。アーセナルは負傷したウェルベックに代えてエジルを投入。更に数分後にラカゼット→ジルーの交代。一方ワトフォードがグレイ→ディーニー、マリアッパ→カリージョの交代でシステムを4-2-2-2に変更。



・ワトフォードのシステム変更の意味を考えてみる。



ワトフォードがこの4-2-2-2(左右非対称の4-2-3-1)へのシステム変更で得られたメリットは2つ。

1つ目は最終ラインでの配置的優位を確保出来た事。これまで3CB対3トップの同数プレスに窒息させられていたワトフォードにとって、後ろで2対1(GKを入れると3対1)の状況を作れたのはかなり大きかったでしょう。

これによってワトフォードは"蹴らされた"、次の攻撃に繋がる確率の低いロングボールの数を減らす事が出来ていました。


2つ目のメリットは中盤で数的優位を確保出来た事。


中盤の4人がアーセナルのCHを囲うように四角形を形成。モンレアルやコシェルニー迎撃隊長は、OHへの撃退に動けないようリシャルリソン・ディーニーがピン止め。よって、ジャカ・エルネニーを2対4の鳥籠の中でプレーしているかのような状態に陥れる事が出来ていました。


で、この中盤での数的優位は下からの攻撃だけではなく、ロングボールを使った攻撃でも旨み成分を得られるのが強みです。


配置的優位により、CBが的を狙ったボールを放れるようになったワトフォードは当然それを活用する。ロングボールの的はディーニー。高さでの優位こそメルテザッカーにあるものの、ディーニーにもかなりの重量があるので、メルテザッカーにはクリアの方向を選択する余裕がありません。よって目の前の中盤のスペース、4対2でワトフォードが数的優位を作っている場所でのセカンドボール争いが多発します。


2対4の状況でアーセナルがセカンドボールを拾えるかと言うと、やっぱり拾えない。プレスラインを下げて守備をセットしても、中盤の2対4を使われて奪い所を絞れない。よってアーセナルはジャカを前プレ隊に参加させてCBの配置的優位を消し、そもそものパスの出どころを潰そうとします。


しかし、それなら当然中盤でより一層の数的優位が発生するよねと、ワトフォードのよく練られた4-2-2-2(左右非対称の4-2-3-1)の前に撃沈。

よってアーセナルは前プレが機能不全となり、自陣に押し込まれる時間が増えていくようにまります。




・ワトフォードによるアーセナルのビルドアップ破壊。



自陣に押し込まれたと言う事は、ボール奪取の位置が低くなったり、ゴールキックの場面が増えるという事。更にアーセナルの前線はイウォビ・エジル・ジルーの3枚で、カウンターからスペース優位を使って陣地回復だ!というのは望めません。


だからアーセナルが攻撃の形を作るにはこの低い位置からの組み立てが重要になるのですが、ワトフォードはこれを真っ向からぶち壊しに来るんですよね。




ワトフォードの狙いは"チェフにロングボールを蹴らせる"事。

チェフがボールを保持したらOHを1列目に押し出してCBをマンツーマン気味に捕まえ、パスコースを削る。CB等、他の選手がボールを保持していたら、とことん前に重心を掛けてバックパスを選択させると言った守備を意識していました。




で、チェフがロングボールを蹴ったら中盤がポジションを元に戻して4対2を作る四角形を形成→セカンドボールを回収〜というのがワトフォードのビルドアップ破壊。(4対2の形を作られてるのにCHのインテンシティやボール回収能力ばかり悪く言われるのはちょっとな〜😓)



この時、前半と違ってアーセナルがワトフォードの同数プレスを回避出来ず、チェフにボールを下げるようになってしまった理由は、前線が縦幅を確保出来なかったから。ラカゼットやウェルベックと言った裏抜けが得意な選手がいれば、前半のように相手の最終ラインを押し下げられて、2-3列目間を使えるようになるのですが、現在はそれが無い。


つまり、ワトフォードが背後を気にせずどんどん前に行けるようになったため、アーセナルの選手が間受け出来るようなスペースが無くなった→パスの出し所が後ろだけという状況になってしまったという事です。


これによってアーセナルは攻撃の芽を摘み取られ、ラインが低くなってしまい、最後はごちゃごちゃパワーで押し切られて失点し、負けてしまいましたとさ。



・監督の采配(交代枠の使い方)について振り返ってみる。

ウェルベック→エジル(後半15分)

ウェルベックの負傷や前半の内容からしてもこれは妥当な交代枠の使い方だったでしょう。不運だったのは、ほぼ同時に相手がシステムを変えてゲーム展開がエジルが活きにくいセカンドボール合戦になってしまった事。
決定機を外してしまったのも、エジル個人の責任が大きく、この交代自体を批判するのは結果論要素が強すぎると思います。

ラカゼット→ジルー (後半20分)

ここですね。これが試合の流れをマイナスに傾けてしまったように見えました。相手がパワーフットボールに切り替えた事への対策に囚われて、本来アーセナルが機能していた一因の前プレや縦幅の確保を疎かにしてしまい、受け身になる時間が長くなってしまうように。
この交代があと10分遅ければ…と思ってしまいまする。

コシェルニー→ホールディング (後半40分)

コシェの負傷によるもの。この時に4バックに移行すべきだったという声もあるけれど、相手がロングボールを多用している中でナチョとディーニーの空中戦のミスマッチが作られる確率を高くするのはかなりリスクが高いように思える。結局、ホールディングを投入しても逆転されてしまったのだけれどあの失点にはこの交代はあまり関与していないように見えるしな〜。


コシェが負傷する前はウィルシャーを投入しようとしていたっぽいけど、誰と代えようとしていたか気になる。


イウォビ→ウィルシャーでシャドウを完全にトップ下化させて、相手の中盤をピン止めし最終ラインで配置的優位を確保。そっから先は質的優位で殴る!って展開ならこれから先に繋がるかは別として応急処置としては期待できた。


一方マルコシウバ監督について。

一見、文句無しの素晴らしい采配!に見えますが、一か八かの博打要素がかなり含まれた試合運びだったと思います。特にそれが表れていたのが2枚替えからのシステム変更からの数分間ですね。ハーフタイムにコミュニケーションを取っていなかったのか、配置にバラツキがあり選手に4-4-2なの?4-2-2-2なの?と言ったような混乱が生まれ、試合が決まってもおかしく無いようなピンチ(イウォビ・エジルのヤツ)を招いてしまっていました。

ただ、その博打をモノにしてしまうあたり、ワトフォードには勢いがあるな〜と。(同時にそれで試合を決めきれないのがアーセナルの弱さだな〜とも思った。)


・右サイドの守備はどうだったか?

この試合、度々突破され同点ゴールのPKのきっかけともなった右サイド。

その原因は「CBのカバーリングの遠さ」にあると思います。

例えばこのシーン。




中で待っている相手は2人+ジャカがペナルティスポットのゾーンを埋めてくれている+エルネニーがバイタルへのマイナスの折り返しを遮断してくれているという状況にも関わらず、コシェルニーはゴール前を固める事を優先し、ベジェリンのカバーリングに向かっていません。


カバーリングがいない際は飛び込まないというのが、守備の基本。


よってベジェリンは相手が仕掛けてくるとズルズル下がるしか無くなります。

しかもそれは最悪の状況を回避するためのモノであって、飛び込まなかった事により状況が良くなるって訳では無く、ここからクロスを上げてチャンス演出・相手が足を上げれば引っ掛かってPKが貰えるリシャルリソン vs PKを恐れてなかなかタックル出来ないベジェリンという圧倒的不利な1on1が展開される…。

…というようにベジェリンがまともな状態で1on1に望めるタイミングが無いんですよね。


PKを与えてしまったシーンもそう。


こんな事を繰り返していたらいずれPKを与えてしまう事になるのは必然だよね〜😅


ちなみに同じ5バックでマドリーの左サイドを完封したスパーズの守備陣形がこちら↓↓



マルセロ対オーリエのカバーリングに3CBのダビンソンサンチェスが向かっているのがわかりますね。

ドリブル得意だぜ!って選手にカバーリング無しの 1on1やろうぜ!って挑んじゃうアーセナル守備陣のドMさよ…😅


・イウォビの得点能力について。

やはりここは大きな課題だなと思いました。1対1を外してしまった事はもちろん、前半にも少し触れたようにイウォビには"得点するための位置取りをする意識"が足りないなと感じました。

例えばこのシーン。


局面はアーセナルがワトフォードの5-4のブロックに探りをいれようとしているところ。

この後、エルネニーがナチョにボールを渡し、ラカゼットが裏へのボールを要求するのですが、


イウォビ、この相手のスライドサボりを感じ取れないかね〜😅

ラカゼットがCBを引き付けてくれてるから、ここ斜めの走りを入れればナチョからのフィード1本で点取れたっしょ…。

それに、ここで斜めの走りを入れる事はナチョから直接ボールを引き出せなかったとしても、「ラカゼットを孤立させない」という意味でも役に立ちます。


この場面だって、



ラカゼットが競り合ってボールを中に折り返すも、誰もいなくて相手にクリアされるって流れで終わるのですが、

ここイウォビがもし走っていたら…


二次攻撃ができた可能性、十分にあったでしょ…と。

これ改善して目標の10G 6~10Aの達成目指して頑張ろうぜい。


・まとめ

3-4-2-1システムが攻略されてしまいましたね。予想より1ヵ月早い…。
ただ、これはシステムの相性、ポケモンでいうでんきタイプ(3-4-2-1)とじめんタイプ(4-2-2-2)みたいな関係。まだみずタイプやひこうタイプへの相手には3-4-2-1は有効だと思うので変わらず続けて欲しいと思っとります。
それでいて4-2-2-2等の相手へ対応出来るよう上積みを…。
個人的には5-3-2をそろそろどうですか?と思います😁








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