【 アーセナル 対 チェルシー 】


ノースロンドンダービーの快勝から一転、なかなか勝利を得られない12月を過ごしたアーセナル。1-3で敗れたマンチェスター・ユナイテッド戦以降はなんとかリーグ戦での敗戦は無いものの、とことんシュートが入らないor得点は出来るけど複数失点をしてしまう、というパターンで勝ち点を落とす試合が続いています。更に怪我人続出と状態はかなり悪いです。


一方のチェルシーはチャンピオンズリーグでローマに完敗して以降、公式戦で複数失点が無い模様。自分の観た試合からは、守備というよりボール保持が安定した事によって守備機会を減らせているという印象を受けました。年末にポロポロ勝ち点を落とした2位ユナイテッドを追い抜くためにも、勝利を収めたいところ。

両チームのスタメンはこんな感じ。




アーセナルのシステムは3-5-2。この試合が初採用のシステム。エジルのポジション移動が多い事から、違った捉え方も出来ると思いますが守備をセットした際の配置からこう表現しました。
コシェルニー・モンレアルの負傷によってCBにはチェンバースとホールディングのブリティッシュペアが起用されています。
また、コラシナツも負傷で離脱しています。よって本職レフトバックの選手がいない。代役はモンスターペアレント持ちで有名な新星メイトランド=ナイルズ。僕の大好きな20歳の選手。そのパフォーマンスの良さから最近、株がグングン上がっているようです。






アカデミーの試合を観た時やネルソンブームの時も言い続けていたので、今称賛されているのは超鼻が高いいいいいいい。


チェルシーは前節のストーク戦でメンバーを落とし、この試合はベストメンバーを組んできました。システムはこちらも3-5-2。アザールの守備をケアするために今シーズンから採用したシステムです。



・配置的優位を打ち消す策と、その策を打ち消す配置。


3-5-2チェルシーは、3CBシステムの相手と対戦した際、IHの1人を1列目に押し出す形の前プレを仕掛けるようになっています。噛み合わせを作る事で、相手の配置的優位を消してビルドアップを破壊する事が狙いです。


この試合もそのプレスを仕掛けてきました。標的としていたのはホールディング。アーセナルの試合を見続けている方なら既知かと思いますが、ホールディングは組み立てに関わる事に長けていません。おまけにこの試合は左CBでの起用なので、右利きのホールディングは相手のプレスに対してボールを隠し難い状態となります。ここをプレスの標的としたのは正解と言えるでしょう。


コンテとしては、


このようにボールをホールディングへ誘導し、バカヨコの押し出しとカンテの移動で3-4-3の噛み合ってを作り、ここでボールを刈り取ろうという算段だったのだと思います。


しかし、実際のアーセナルのシステムは3-5-2であり中盤は3枚。その影響でバカヨコが前へ出ると中盤で数的不利が発生し、カンテの守備の基準が定まらなくなります。


よってこのように簡単にジャカが空き、プレスを簡単に外されるようになっていました。前プレを外されるのであれば、後ろの選手を前に持って行く意味はまずありません。前半20分あたりからチェルシーはバカヨコを一列目に加えないようになります。

そうなればもうこっちのもの。



アーセナルは相手2トップに対する3CB+ジャカの菱形ビルドアップでかなり楽に中盤へボールを届けられるようになっていきました。



・アーセナルの定位置攻撃。




ハーフラインを超えてからのアーセナルの攻撃はバカヨコ脇のスペースを使うエジルを起点としていました。そしてそこから崩しのフェーズに移る際に最も見られた形がエジル→サンチェスの縦パスでアスピリクエタを釣り出し、空いたニアゾーンに選手が飛び出して行く形です。
そのランニングを仕掛ける選手を決めるのはサンチェス。サンチェスが自分で反転したりエジルにボールをリターンしたりした場合はナイルズが、サンチェスがナイルズへボールを渡した場合はエジルかサンチェス自身が走り込むように設計されていました。




このようにナイルズがモーゼスに対してスピードで優位性を示せた事も大きく、彼がニアゾーンに侵入出来る場面が多かったのでアスピリクエタは迎撃に出ていけなくなります。そうなるとチェルシーの守備ブロックの中盤とDFラインの間のケアはどうしても甘くなってしまいます。

そして、ここらのタイミングでアーセナルの選手のポジショニングは少し変化します。




チェンバースがポジションを1列上げてウィルシャーを高い位置に押し出す形…というよりウィルシャーが高い位置を取るのをチェンバースが列を上げてカバーした形と言った方が正しいかな。
ウィルシャーはセスク-カンテ間を定位置とし、そこから背後を取ろうと緩くなっているライン間へ侵入したり足元でパスを貰おうとボールに寄ってきたりします。アクションの種類は少ないですが、カンテはウィルシャーを意識せざるを得ない。先述の通りアスピリクエタは前に出てこなくなった。よってバカヨコに対するカバーリングは少なくなり、バカヨコ自身の身体が重かった事も相まってエジル・サンチェスがこの圧力の低いバカヨコの脇・背後のエリアで存分にチャンスメイク出来るようになります。


・重心が偏るデメリット。

しかし、このポジショニングの変化が効果抜群だったか?というとそうではありませんでした。何故なら右サイドの機能不全を引き起こす一因となっていたからです。



2トップのメリットの1つに「片方がサイドや裏に抜けても、もう片方が中央にいるのでターゲットになれる」という事があります。しかしアーセナルの場合、サンチェスはワイドトップのような役割なのでそれは当てはまりません。その場合はラカゼットが縦幅の確保に動き、IHの選手にCBと前線をリンクするタスクが求められます。しかし、ウィルシャーがセスク-カンテ間から出て来てそのようなプレーをする場面は殆どありませんでした。

ラカゼットが裏抜けと楔の引き出しの1人2役を担うのは物理的に限界がある。チェンバースがドライブでボールを運ぶのはとてもリスクが高い。ベジェリンにボールを預けて角度を変えた所から入口を探っても↓↓のように中盤との距離が遠くなるだけである。


よって攻め手が無いと判断したチェンバースは早めに裏へ抜けるラカゼットにロングフィードを送ったり、中央にボールを戻してサイドチェンジを促すようになります。

設計された攻撃ではないので、当然、上手くいきません。ロングフィードはラカゼットへ通る場面こそ少し見られましたが、ラカゼットがそもそも孤立しているのでその先に繋がらず。
5-3-2で中央を固めている相手に対して軽率に中央を経由する事もこのようなピンチを招く原因となっていました。






・数的不利でも配置的優位を使わせないヨ。

アーセナルの一列目は2枚。という事はチェルシーと同じく2トップ対3CBの構図で数的不利となります。しかし、アーセナルの2トップは守備でよく動けます。そこがチェルシーの前プレとの違いでした。


まず、どちらのサイドへボールが出ても対応出来るよう相手CBの中間にポジショニングします。


パスが出たら横移動。ファーストディフェンスの選手はGKへのパスルートを遮断し、逆サイドのFWの選手がクリステンセンに付いてチェルシーからサイドチェンジの選択肢を奪います。(逆サイドのCBは空いても問題ないので放置。)



そして2列目では噛み合わせを作って近場の選択肢を、最終ラインでは数的優位を確保してロングボールの選択肢を奪う(ムスタフィはモラタにマンマーク気味)という設計です。ボールサイドでの同数プレッシング。

このアーセナルの前プレによってチェルシーのビルドアップは前半の半ばあたりまでなかなか機能できませんでした。



ちなみに、前半の1番のビックチャンス(サンチェスのシュートがクルトワに触られてポストに2回当たったヤツ)も元を辿るとこのプレッシングによってボールを回収出来た所から始まっています。


ただ、前プレでの形がハッキリしたからと言って守備が安定する訳では無いのがアーセナル。その原因は、"セット出来ていない"ところから始まった守備(攻→守備が入れ替わったばかりの時や、相手選手が動いて基準が乱れた時の守備)の曖昧さでした。


例えばチェンバースがボールの落下地点を見誤ってモラタに抜け出されたシーン。エジルがカンテに初期位置を動かされて空いたスペースをクリステンセンに使われた所から始まっています。そこをジャカが前に出てケアする所までは良いのだけれど、その背後のエリアを誰がカバーするかという所がハッキリしていない。



チェンバースはウィルシャーに下りていくアザールへ付くよう指示を出すがウィルシャーは動かない→チェンバースは自分が付いていくべきか否かと迷いが出てボールへの集中力が削がれる→落下地点を見誤って大ピンチに、という流れです。

このようにアーセナルの守備は、一列目からのセットが崩れると「このスペース・選手はどうする?」と1回1回頭にクエスチョンマークを浮かべながらの守備になっていて、特にカウンター時に裏に抜けていく相手に対して後手後手の対応を強いられていました。



・セスクの左落ちとバカヨコのBox to Box化。

恐らくこれは前回の対戦でケーヒルの所を狙い撃ちにされた事への対策だと思います。まずはアロンソに高い位置を取らせ、ベジェリンをピン止め。空いたWBのエリアにセスクを落とします。そしてウィルシャーをサイドに釣り出し、中盤を手薄にした所でアザール・モラタに縦パスを打ち込む設計です。
アーセナルからすると、セスクにアプローチするとアザール・モラタにパスが通る、ゾーンを優先すればセスクに好きにゲームメイクを許してしまう事になるので非常にめんどくさい。



だったら「アザール・モラタにはCBで迎撃だ!」作戦に出るアーセナル。しかしそれを許さなかったのがバカヨコのBox to Box化です。



高めにポジショニングしておいて迎撃に出るCBの背後を取る。これを繰り返す事によって、アーセナルの迎撃作戦を無効化していきました。

ただ、この攻撃の形はチェルシーが試合の流れを掴みきれない原因にもなっていました。

可変システムのデメリットは選手が定位置に戻るのに時間を必要とする事、つまりネガティブトランジションのタイミングで陣形が崩れているという事です。

この試合ではIHのセスクとバカヨコがポジションを大きく動かしています。よってボールをロストしたタイミングではカンテの両脇にスペースが出来ている。ここの優位を活かしてアーセナルはカウンター攻撃を繰り返して行きました。




よって、試合は両チームに得点チャンスのあるオープンな展開となっていきます。その中で先制したのはアーセナル。 後半17分、セットプレー崩れからニアゾーンへ侵入したウィルシャーがクルトワのニアサイドを破っての素晴らしい得点でした。

その数分後、チェルシーがペナルティキックを獲得して同点。アーセナルの集中力の欠陥が原因ではあるけれど、セスクの左落ちとセスク→アザールの縦パスが起点となっているあたり、チェルシーのやっていた事が実った得点とも言えます。


・WBを使ったアイソレーション。

チェルシーのような3-5-2システムは3-4-2-1と比べると明確なサイドプレイヤーが少ないため、サイド攻撃の流動性というのはどうしても落ちてしまいます。だったら単調な攻撃でも得点出来るようになろう!というのが3-5-2チェルシー。その方法の一つが右WBを使ったアイソレーションです。

まずはアザール・セスクと言った攻撃面で違いを作り出せる選手を同サイドでプレーさせます。当然、相手は打開されまいとボールサイドから中央にかけての密度を高めます。
しかし、彼らは密集地で息のできる選手であり相手がボールサイドの密度を高めているという事は、逆サイドにスペースが出来ます。
そこへWBの選手が攻撃参加してサイドチェンジ→突破→クロスの流れで攻撃を終わらせるという形です。

そのため右WBがアタッキングサードでボールを持った時は、モラタ・バカヨコ・アロンソとチェルシーの中で競り合いに強い3人がほぼ100%の確率でクロス待機していました。


それでもアーセナルがこの形から試合中ピンチを迎えなかったのはナイルズがモーゼスを途中交代させるほどにクロスを満足に上げさせなかったからです。足に当てて攻撃を切ったり、左足に持ち変えさせたり…と。

それがたった1度振り切られた場面が失点に繋がってしまいました。マッチアップの相手がモーゼスからザッパコスタに変わったのも影響したかもしれないけど。後半39分、ウィリアンのサイドチェンジを受けたザッパコスタがナイルズを振り切りクロス。それをマルコスアロンソが合わせてチェルシー逆転。



ここからは4バックに変更したアーセナルが、5-4-1で撤退するチェルシーをクロスで殴り続けるという展開に。ターゲットはウェルベックである事が多く、ウェルベックは頻繁にチェルシーの弱点でもあるWB-CB間に動き直してクロスを要求していました。


しかし本来これはジルーの役割であり、ジルーの迫力と比べると当然だけれど物足りない。

なのに、同点弾に繋がる( 笑 )
後半アディショナルタイム、ムスタフィのクロスが上がる。んでそれに合わせようとしたウェルベックがブライドとなり、マルコスアロンソはクリアをゴール前に残してしまう。そこをベジェリンが詰めてアーセナル同点。


その直後に心臓が止まりそうになるピンチを迎えましたが試合はそのまま終了。2-2のドローとなりました。



・この試合の雑感。

両者とも勝てたなと思ったであろう試合。普通に面白かった。

アーセナルについて気になったのは、相手のクロスに対する守備の時にゾーンを抑えきれていない事。
基本的に抑えてないといけないゾーンはここ↓↓



特にボールの到達時間が速くGKがクロスを処理する事が難しいため、ニアポスト(ニアポストの延長上とゴールエリアの横ラインが重なる所)は最優先で埋めておかなければならない場所です。
にも関わらずリバポ戦、チェルシー戦と続けてここのエリアで合わせられてるんですよね〜(ジャッジの過失が大きいけど、シティ戦の失点もそう)。

マンマークディフェンスだと相手がポジション移動を行った時や守備の枚数が足りない時の対応が難しいので、もう少しゾーンの整備をやって欲しいな〜と。

チェルシーについては、コンテがバカヨコにさせている動きをみるとヴィダルを狙っている理由がわかる。というかユーヴェの時のヴィダルのタスクがそのまんまという感じ。





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