【アトレティコマドリー 対 ラスパルマス】




今シーズンの前半戦はロースコアのゲームで勝ち点3を取り逃す、とりわけ先制しても逃げきれないという試合が多い印象だったアトレティコマドリー。チャンピオンズリーグではグループリーグ3位となり、アーセナルと同じELへ。コパデルレイでもセビージャに2戦合計2-5で敗れ、敗退が決定している。しかし、12月以降は90分を0で抑えきれる試合が増えているようで、コツコツとポイントを重ねていきリーグ戦の順位は未だ無敗のバルセロナに次ぐ2位となっています。


降格圏に位置するラスパルマス。今季既に2回も監督を交代している。そして現在の監督は超攻撃的サッカー+大量失点で有名なパコへメス。ジローナ相手にボール支配率60%弱を記録しながら、0-6で大敗するなど早速らしさを見せているよう😂


そんなスタイルが真逆のチーム・監督が顔を合わせた1戦を振り返ってみようと思います。



・アトレティコマドリーの前プレ。

・ゴールキック時。

アトレティコの前プレに触れる前に、ラスパルマスのゴールキックからのビルドアップの形について整理しておく。


まず、4-3-3のアンカーを最終ラインに落とす。エリアが重ならないよう、2CBは横に広がる。そしてCBとの距離感を整える+横幅確保のために、SBは高い位置を取るというポピュラーな形。

この形の利点は2トップの相手に対してGKを含めた最終ラインの選手で4対2の数的優位が作れる(守備者2人に対してボール保持者のパスコースは3つ確保出来る)という事。よって、4-4-2を基本システムとしているアトレティコマドリーを相手にこの形のビルドアップで前進しようとするのは、理にかなった策と言えます。

しかし、アトレティコマドリーはこのラスパルマスのゴールキックの形への対策をしっかり練ってきていた。



4-3-3による相手最終ラインへの同数プレッシング。当然だがセットプレーでは、ボール保持者がボールを持ち運んで前進させたり、相手を動かしてスペースを作ったりする事は出来ない。だから最終ラインの3枚を捕まえて近場のパスルートを塞げば、長いボールを蹴らざるをえないよね?というのがアトレティコの考えである。

なお、図にある通りシステムの噛み合わせ上、空いてしまうラスパルマスのSBには、SBまたはIHが本来のマーカーとの中間ポジションからスタートする事で対応していた。

それでも、ラスパルマスの他のポジションの選手はアトレティコの選手にガッツリ捕まえられていて空中戦で優位に立てる所が無い。


よってラスパルマスはゴールキックをそのままそのエリアへ蹴り込み、SB同士が空中戦で勝負するという場面が繰り返し見られるようになる。勝率は五分五分。
ラスパルマスのやりたい形を崩し、ボールの前進の確率を落とさせている事から、アトレティコのこのプレッシングは成功したと言って良いでしょう。

・オープンプレー時。


オープンプレーでのビルドアップ時のラスパルマスは、ゴールキックの時と比較するとアンカーを最終ラインに落とす事が少ない。よってアトレティコは中盤の数的不利(2CH 対 3センター)をどう解決するかという問題に立ち向かわなければならない。


アトレティコのそれへの回答は、コケのIH化でした。右サイドへボールが出ると、コケはシモンを捨ててタナのマークへ移る。それによって浮いたサウールがヴィエラを、ガビがペニャルバを捕まえる。こうしてボールサイドで噛み合わせを作る事で、ラスパルマスの左CBのナバーロに残されたパスルートは逆サイドのSBへの長いサイドチェンジか、GKへのバックパスのみになるという状況を作り出し、前進を妨げるという仕組みだった。


なお、ラスパルマスがGKを経由して右SBのシモンへの展開を試みた場面では、リュカエルナンデスが中間ポジションからスタートしてケアに向かうなど、ゴールキックの時と同じ要領で対応していた。

このアトレティコの噛み合わせを作る仕組みにラスパルマスはとても苦労していた。

しかし一方で、アトレティコが左サイドで守備を行う場面ではこのような動きは見られなかった。



このように、右SHのコレアはコケと違い逆サイドにボールがある時でも対面のSBを意識したポジショニングをする。そのため2CHは自分のマーク(ラスパルマスのIH)を離せず、アンカーまでアプローチに行く事が出来ない。アトレティコの2トップは守備に走れる選手であるが、GK+2CB+アンカーの4人を2人で見るのは限界がある。
よってアトレティコは先述の中盤の数的不利問題を解決出来ず、ラスパルマスに左→右と振られる形で前進を許してしまう事が増えていくようになる。ラスパルマスからすると、左からの前進は無理だったけど右からのサイドチェンジを利用していけば大丈夫だな、みたいな。

ちなみに、コレアの守備意識が低いとかそう言うわけでは無い。むしろコレアは試合を通してとても守備に貢献していた。だからこれは、シメオネ監督がコレアにこの守備タスクを課していなかったか、コケが状況を見て判断して超精力的に頑張っていただけかのどちらかと思っています。答えはシメオネ監督に聞いてみないとわからない。




・ラスパルマスの定位置攻撃。

ハーフラインまでボールを前進させる形を見つけられたラスパルマスは、定位置攻撃へと移っていく。


アトレティコマドリーの撤退守備時のシステムは4-4-2。言うまでもないが非常にコンパクトで密度が高く、彼らのブロックの中に潜り込むのは非常に難しい。が、それゆえ大外のレーン、特にボールと逆サイドのそれにはスペースが出来やすい。よって、ラスパルマスは横の揺さぶりから大外のレーンを使って攻撃をスピードアップさせるようになる。

・最近流行りの、ウイングが大外にポジショニング+SBがインナーラップの形。




・ウイングがハーフスペースにポジショニングする→SBが横幅を確保し、そこへパスが入ったタイミングでウイングがパラレラを仕掛ける形。






主にこの二つを使い分ける事でアトレティコに守備の基準をはっきりさせないよう設計されていた。
また、これらの攻撃の出口はどちらもニアゾーンである事が殆どだった。


このような形で切り込んでいくラスパルマス。しかし、決定機はあまり作れなかった。と言うのも設計自体は理にかなっているのだけれど、個人的な技術不足からくるミスが多く、これらの過程のどこかしらで躓く。また、SBのラインを上げた状態からのロストになるため、カウンターからピンチを迎える場面も少なくなかった。



・アトレティコマドリーのビルドアップ。



ラスパルマスの前プレは4-3-3からIHの押し出しとアンカーのポジション調整によって4-4-2に変化する形である。2トップの選手がCBやバックパスを受けたオブラクにまで積極的に圧力を掛けていた事が印象的だった。
これに対してアトレティコは主に、ロングボールでのプレス回避を狙う。その際に特徴があったのが、2列目のポジショニング。



コケが2トップの懐に潜り込む事で中盤の階層を増やし、セカンド回収から前線の選手が機動力を活かして縦にグイグイ食いこんでいくという設計だった。



そして前半半ばあたりからは、コレアにもそのポジショニングを取らせて4-2-2-2システムに変更し、より一層中盤に厚みを持たせる。前線に特別空中戦の強い選手がいなくても、ロングボールを使っての前進が計算出来る仕組みをきちんと仕込めているのは素直に凄いなと思った。

更にアトレティコは、やみくもに全部蹴っ飛ばすという訳ではなく、相手が間延びしていて確実にショートパスで組み立てられる場面では、しっかり下で繋ごうとする姿勢も見せる。そしてその足下で繋いでいく際にも、4-2-2-2システムの特徴が見られた。


4-2-2-2はSB以外の選手が中央へ集結するため、SBの選手が大外でボールを保持した際の選択肢が少なくなる。その分、中盤の階層が多い。よって、アトレティコはサイドへは殆ど揺さ振らずに列をスキップしたパス→レイオフ等の形で、素早く縦に貫くビルドアップを行っていた。また、ミスをしても自チームの選手が多いエリアでのロストとなるため、直ぐに守備に移れてトランジション勝負に持ち込める等、アトレティコの特徴ともマッチしているようにも感じました。

お互いの色がよく出た前半。スコアは動かずスコアレスのままハーフタイムを迎える。


・コケ→カラスコ。


後半、シメオネ監督は頭からコケに変えてカラスコを投入する。
前半のコケの役割で特徴的だったのが

・攻撃時に内側にポジショニングして中盤の階層を増やす事。

・前プレ時にIH化して同数プレッシングを促す事。

である。それらがカラスコ投入後はどうなったか見てみる。まずは攻撃時のポジショニングについて。


このように前半と違い両翼が完全にサイドに張るようになっていた。アトレティコマドリーはビルドアップ時に最終ラインの枚数を動かしたりする事は殆どない。よって、4-4-2のラスパルマスは噛み合わせを作りやすく、どんどんアトレティコに圧力を掛けていく。


それに対してアトレティコは、前半と同様ロングボールを使ってのプレス回避を狙う。しかし、優位性を得られる配置では無いのでセカンドボールを拾える場面が前半と比べるとかなり少なくなっていた。

次に前プレ時について。結論を先に言うと、カラスコは前半のコレアと同じく、IH化せずSBを意識したポジショニングを取っていた。


よってアトレティコは、やはり中盤の数的不利を解消出来ず、そこを起点とされてラスパルマスに自陣深くまでボールを運ばれるシーンが増えていった。

・この交代の理由。

ここまでの内容を見ると悪手に見えるこの交代。しかしこれはシメオネ監督の想定内(だったはず)。
前半は、ロングボールからのセカンドボール争いだったり前プレで噛み合わせを作ろうとしたりと、高い位置でトランジションの機会を作り出す事がアトレティコ側の狙いだった。しかしそれは、体力の消耗が激しいため90分持つかわからないという不安要素がある。そこに、前半の試合内容から「ラスパルマスは技術的ミスが多い+定位置攻撃時にSBを上げる」という要素も加わった。
それなら、前プレやらセカンド回収やらを捨ててある程度ラスパルマスに攻め込ませて置いてから、ミス誘発→カウンターでスピードのある選手(カラスコ)にSB裏を狙わせるって形の方が効率が良い。

よってシメオネ監督はゲームプランを撤退からのカウンターに切り替える。これがコケ→カラスコの交代の理由であった。

そしてアトレティコマドリーの先制点はカラスコこそ経由しないものの、このシメオネ監督のプランがガッチリハマった形で決まる。



サイドチェンジで大外に振って、SBがインナーラップというラスパルマスお決まりの形からミスを誘発してカウンター。グリーズマンの抜け出しと冷静なフィニッシュもお見事。ラスパルマスとしては、ボール保持者の状態を見ずにカステジャーノが上がってしまった事と、最終ラインがラインコントロールで解決しようとして失敗してしまった事が痛かった。




・4-5-1への変更。



リードを得た事によって、無理に攻撃へ出なくても良くなったアトレティコは、撤退守備のシステムをグリーズマン右サイド、コレアIHの4-5-1へと変更する。


ラスパルマスがサイドチェンジから大外のレーンを使ってのチャンスメイクを狙い続けていたため、中盤の枚数を増やす事で横幅を守りやすくして穴を塞いでおこうという狙いである。

4-5-1は4-4-2と比較すると一列目の枚数が少ないため、相手のCBに時間を与えてしまうデメリットがある。しかしラスパルマスのCBは、時間を得たところで前線に精度の高いボールを供給する事が出来ない。


また、仮にパスが通ったとしてもアトレティコマドリーの密度が高いブロックの中でボールを捌ける選手がいないため、上のようにアトレティコの守備網に簡単に捕まってしまう。よって4-5-1のデメリットが目立たないだろうというのがシメオネ監督の算段だった。

外も中も無理。ラスパルマスは定位置攻撃からチャンスに結びつけるポイントを失ってしまう。しかし、ここで引かずに攻撃で殴りにかかるのがパコ へメス監督のチーム。で案の定2列目にパスを引っ掛けてのボールロストからカウンターを受け、フェンナンドトーレスに追加点を許してしまう。

畳み掛けるシメオネ監督は80分にトーレス→ヴィトーロ、81分にコレア→トーマスの交代を行い、カラスコを最前線に上げる。中盤の運動量の補充と、前プレ+カウンターの強度を上げる狙いだろう。

そして、これがまた綺麗にハマる。


三度ラスパルマスが2列目にパスを引っ掛けた所からカラスコがスピードを活かしたドリブルで持ち運び、最後はトーマスが流し込んで3-0。


試合はそのまま終了し、アトレティコが勝ち点3を積み重ねました。





・まとめ。


シメオネ監督がお得意のスタイルでラスパルマスをカモったな〜という印象。最終的に複数失点で負けるあたり、パコへメさんも相変わらずだった。

アトレティコは、この記事をまとめている間にバレンシア・マラガ・コペンハーゲンを下して公式戦4連勝を飾っている模様。ELはアーセナルに譲ってくださいお願いします。


















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