【なぜアーセナルはハイプレスに捕まってしまうのか?】




これはOptaが出した、今季欧州五大リーグ内のチームで失点に直結したミスの回数が多い順のランキングである。アーセナルは11回(2月26日)で堂々のトップ。その一番の原因は、やはりGKを使ったビルドアップでしょう。ハイプレスを仕掛けられると後ろからの繋ぎがとにかく落ち着かず、ロングボールを蹴る事で逃げるしかない。それは当然ビックマッチでウィークポイントとなり、ノースロンドンダービーやマンチェスターシティとの2連戦ではハイプレスを仕掛けられ敵陣へボールを運べず、自陣に貼り付けにされる時間帯が長くなり完敗しました。

では何故アーセナルはハイプレスに捕まってしまうのか。それを、現在ビルドアップの構築・プレス回避のレベルがトップクラスであるシティと比較してまとめてみようと思います。


・マンチェスターシティのビルドアップの基盤

<ペナルティエリア脇>

最初にシティのビルドアップの基盤となっている部分を整理しようと思います。

ビルドアップ時にシティがまず起こすアクションは、"CBが相手から離れる事"です。



基本ペナルティエリア脇まで、時にはゴールラインギリギリまで下がって相手の1列目と距離をとり、オープン(前向きフリー)な状態を作ります。狙いはCBに縦パスの打ち込み役+バックパスの逃げ所になるタスクを課せるようにする事です。

この状態を作れたときのマンチェスターシティは、CBが縦パス(主にSBやIHへ)を出す→当然受け手には相手が寄ってくる→CBに戻す→相手が動いて空いたエリアへ再び縦パス(空かなければGKや逆サイドのCBへボールを渡してやり直す)という流れを作業のように進めていきます。

相手チームからすると、精度の高い縦パスが出てくるのでゾーン(自分の定位置)を優先すればマーカーへの寄せが間に合わない、人(相手にマークする事)を優先すれば別のエリアを空けてしまう事になるという、非常に対応が難しい状況。

その際の相手チームのミスや陣形の崩れを突く事でボールを運べる設計となっています。


【オタメンディがオープンな状態でボールを保持した所を起点に、ムヒタリアンを動かして前進するシティ。】

<1-2列目間>


このようなボール保持や前進が続けば、当然相手は起点となっているCB・GKからオープンな状態を取り上げようと、1列目のプレスラインを高めてきます。

その場合に起点となるのが"中盤のビルドアップ隊への参加"です。


余裕の無くなったCB・GKの代わりに、中盤(SBの場合もある)の選手が本来なら相手の1列目が守っているエリアを使ってオープンな状態を作ります。


基本的なメカニズムはCB・GKの部分と同じ。
オープンな状態の中盤が縦パスの打ち込み役+ボールの逃がし所となりながら、縦パス→レイオフの形で相手を動かす事を作業のように進めていき、相手の陣形の崩れを突いてボールを運びます。

CB・GKの部分との違いは単純にボール保持者の配球能力が高くなる事。特にマンチェスターシティのキーマンであるデブライネ・シルバがボールを保持すると、より正確なサイドチェンジや楔を打ち込めるのでこの展開になるとスムーズにファイナルサードまでボールを運べる事が多い印象です。


<MF-DF間>


それに対応しようと、相手チームが下りていく選手を中盤の選手で捕まえてきた場合。

今までの流れからしてわかると思いますが、シティは相手のMFとDFのライン間に出来るスペースを使います。


ただし、この距離のパスを通すとなるとパスは浮き玉となる事がほぼ確実であり、今までのようにファーストタッチでオープンな状態を作る、というのは困難です。そしてそれは相手も織り込み済みで、処理に時間が掛かった所を狙ってボールを奪おうとします。

よってこの相手MF-DF間のスペースを使う際は、受け手となる選手が直接オープン状態を作るような事が無いように工夫をします。

【ライン間をセカンド回収のポイントにする形】



【1列後ろの選手へレイオフ。】


主にこの二つの形が継続して見られました。

これらの形のプレス回避は浮き玉を使うので上の二つと比較するとどうしても正確性は劣りますが、成立した時は相手の守備の重心の逆を突けるため、擬似カウンターを仕掛けやすく、非常に得点を期待出来る形へ持ち込む事が出来ます。

その象徴的な形が昨季のエミレーツでのサネの得点です。

【エミレーツで昨年サネに得点を許したシーン】


<裏のスペース>


このMF-DFのライン間を相手がCBの前進で埋めようとした場合。言わずとも分かる通り、シティの狙いは裏のスペースになります。
グアルディオラが快速のアタッカーを揃えるのはここで確実に優位性を得られるようにするためでしょう。相手CBがそのまま前進し続ければ縦ポン攻撃で仕留められる、警戒してラインを下げれば引き続きMF-DFのライン間を使えるようになるという設計です。

スピードの優位性を生かしたというより、ムスタフィのエラーが主な原因ではありますが、リーグ杯の決勝ではその狙い通りブラボのフィードからアグエロが前進していたアーセナルのCBの背後を突く形で得点しました。





このようにシティは、ハイプレスを仕掛けて来る相手に対して、ペナルティエリア脇・1-2列目間・MF-DF間・最終ラインの裏…と4つのスペースを使い分ける事を基盤とし、ビルドアップを成立させています。




・アーセナルのビルドアップ。


これらのシティのビルドアップの基盤と比較してアーセナルに最も足りないモノ。それはCBのポジション調整です。



チェフにボールが渡ったタイミングでパスコースを確保しよう、守備者から距離を取ろうという動きが殆どなく、ロングボールを蹴らされるという場面が非常に多い。

また、このCBのポジショニングはこのような形以外でも自分・チームに不利益をもたらします。


①.オープンな状態を作れない。


主にコシェルニーに見られる形。相手の守備者から充分な距離を取らないという事は、ボールを貰った時に相手から強い圧力を受ける事を意味します。コシェルニーは元々、左足でのボールの扱いに優れている選手ではありません。
よって、プレスを受けるとピッチの内側(利き足側)にボールを置く事になり相手に次のボールの動きを予測されやすくなってしまいます。





受け手の余裕が無くなりGKへ戻す、またはロングボールを蹴るしかない…とかなり厳しい状況。スカウティングでここが狙い目だと理解していたのか、シティはこの状況を狙って作り出していたように見えました。



②.出し手と受け手の要求の不一致。


パス交換は出し手と受け手が揃って初めて成立するものです。そして出し手と受け手にはそれぞれ優先すべきモノがあります。

今回のような低い位置でのビルドアップの場面では、
・出し手→ロストが失点に直結するエリアなのでインターセプトされない事。
・受け手→次のプレーの選択肢を多く確保するためにオープンな状態を作る事。
と言ったところでしょう。マンチェスターシティの場合はCBを相手の守備者から距離をとらせる事でそれらを噛み合わせています。


しかし、アーセナルの場合は先述の通りCBが相手から充分な距離を取りません。


よってお互いの要求に差が出来たままでパス交換をする事になります。



そのため受け手の後方にパスが来る→トラップするために一旦前方から視線を切る→味方・相手の情報を処理出来ずパニックに…という状況がよく起きています。

恐らくアーセナルのビルドアップの落ち着きの無さや、イージーエラーからの失点が多い原因で1番多くの割合を占めてるのがこれ。


③.中盤を使えなくなる。


上で書いたように、マンチェスターシティは最初からCBを捕まえられた際に中盤、或いは最前線の選手を下ろす事でビルドアップを成立させます。しかし、アーセナルにはそれが出来ません。何故なら中盤で落ちるスペース・基準を作れないからです。


【シティの場合】

 【アーセナルの場合】

実際の場面がこちら。


同数プレスを仕掛けるアーセナルを、CBが深い位置で構える+中盤が下りていく事でMF-DFのライン間でスペースを得るシティ。


対して、CBとCH共に捕まえられているのにシティにコンパクトな陣形での守備を許しているアーセナル…とかなりの違いがある事がわかると思います。

この状態で中盤から前進を狙うのは、



早い段階で相手に密集地を作られるためリスクが高い。

このようなCHにビルドアップを丸投げの状態でも何とかしてくれたカソルラは長期離脱中である。よく、CHのポジショニングが高いと言われていますが、下りてきたとて処理出来る状況を作れていないのでセカンドボール争いに参戦した方が貢献出来ると言う状況をCBのポジショニングの高さが生み出しているのです。

そして、そんな(相手の中盤でスペースを確保していない)状態ではシティの選手とてビルドアップミスをしてしまう、という例を上げときます。




以上の事から、CBのポジショニングを整えなければ中盤に誰を獲得しようがアーセナルのビルドアップは成立しない、または「そのスーパーな選手がいなければビルドアップが出来ん!代役とれ!」の無茶振りの繰り返しになると自分は思っております。



・まとめ。

CHのエリアorロングボールという、二択のビルドアップしか出来ないアーセナルと4つのゾーンを使い分ける事によってスペースを得られるシティ、みたいな。

選手の性質の違いもあるし、シティの真似をしろ!って言うわけじゃないけどスペースを作る仕組みは必要だよねと思いましたまる。






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