【ファーストレグの定位置攻撃を振り返ってみる】vs CSKA モスクワ



リーグ戦でのCL出場権確保がほぼ不可能となっているアーセナル。よって現在はリーグ戦では主力選手を休ませヨーロッパリーグに全力を注ぐ方針となっている。
準々決勝の相手はCSKAモスクワ。ベレズスキ兄弟やイグナシェビッチが未だにバリバリの主力だったのは笑った。

そんな対戦での、アーセナルの定位置攻撃について、今回は取り上げて見ようと思います。



・CSKAの守備の意図を整理する。




CSKAモスクワの守備はずばり、アーセナルのCBに持たせてしまえ作戦だ。
最近の3-4-2-1のチームの守備システムは5-4-1である事が多いのだが、CSKAモスクワは主に5-2-3(2-3の部分が五角形になるような陣形)でセットしていた。ジャゴエフとムサがウェーンブローンの脇のスペースにポジショニングする事でアーセナルのCBのドライブや楔の打ち込みを制限。1-2列目間にパスを打ち込まれた際には、五角形の内の数人が素早く圧縮してボール奪取を狙う約束事。
中央レーン-ハーフスペースは絶対に割らせないぞという意志が強く伝わってきた。



そうなると、当然アーセナルは大外レーンで前進のポイントを探るようになる。今季3CBの左CBを経験した事もあって、ベジェリンよりモンレアルの方が低い位置での組み立てへの参加を得意としている。よってアーセナルは左サイドでビルドアップの出口を探そうとする場面が多かった。


それをCSKAモスクワはWBの縦スライドで塞ぐ。モンレアル-CHのライン上(またはその付近)にはジャゴエフがポジショニングしているので、横パスは通りそうにない。よって、モンレアルはボールをCBへリターンするしかない。


アーセナルのCB、特にムスタフィはボールを持たされる展開になると焦れてしまい、1発で状況を打開しようとリスクの高いパスを狙う傾向がある。加えてアーセナルは被カウンター時の対応を苦手としている。

前進のポイントを削る+重心を低くしてCBに時間を与える事でこれらのアーセナルのウィークポイントを突く事がCSKAモスクワの「CBにボールを持たせてしまえ作戦」の狙いであった。




・相手の構造の弱い所を叩く。


しかし、CSKAモスクワのこのプランは早々にぶち壊されてしまう。

アーセナルの攻撃は、ムヒタリアン・ラカゼット(時々ウィルシャー)が3CBのピン留めを行い、エジル・ラムジー(時々ラカゼット)が相手CH脇(詳しく言えば相手のシャドウ-CH-WBのトライアングルの間)にポジショニングする設計となっていた。



CSKAモスクワからすると、WBはモンレアルにアタックするタスクがある。CBはピン止めされていて身動きが取り辛い。CHがその脇の選手に食いついて動いてしまうと五角形の圧縮が成立しなくなってしまう。つまり、その脇を埋められる選手がいないのである。

よって、そのシャドウ-CH-WB間にポジショニングする選手を捕まえる事は難しく、モンレアルにプレスの外し所(前進のポイント)を与えてしまうようになる。

そうなると一気に脆くなるCSKA。前進しているWBの裏のカバーリングが誰もいない。アーセナルはヘアカットちゃんの自慢のスピードやモンレアルの攻撃参加のタイミングの良さを生かしてそのスペースを突く事で、CSKAモスクワの守備を叩いていった。

CH脇にポジショニングする選手は誰であっても同じタスクだったので、恐らくスカウティングの成果が出たのだと思う。ぶっ壊すまでの早さが尋常じゃなかった。







・相手の守備陣形を動かした後。



アーセナルの前進を塞げなくなったCSKAモスクワは、WB裏のスペースを使われる事を避けるためにWBの縦スライドを辞めるようになる。しかし、なんの制限もなくアーセナルのSBに前進を許しては、ズルズルDFラインを後退させてしまうだけだ。よって、シャドウが相手SBのエリアまでプレスバックするようになる。


人が動くとスペースが産まれるのがサッカーである。当然、CSKAのシャドウがいた元の位置にもスペースが出来る。

このエリアに顔を出してボールを捌くのがジャカだ。スペースを認知して使うまでのスピードが早かった事から、ここをジャカが使う事はチームでの決まり事だったのだとは思うが、最近は殆どの試合で相手チームのプレスが掛からないエリアでボールを受けられているので、ジャカ個人のスペースを認知する能力も高くなっているのだと思う。








ボールを受けたジャカは得意の大きなサイドチェンジ(左→右の形はズレ気味だったけれど)や、2CH周りへのスピードのある楔を散らしてゲームをコントロールしていた。ジャカを抑えようとCHがアプローチに行けばバイタルケアが怪しくなる、1トップのウェーンブローンがプレスバックに来ればカウンターの起点を作れなくなるという計算である。

なお、左サイドはジャカで固定気味だったのに対して右サイドのこのエリアはジャカ・ムスタフィ・ラムジー・エジルの4人で共有して使っている感じであった。




・先制点。

アーセナルのSBにボールが渡りそうな場面では5-4-1、中央でCBがボールを持っている時は5-2-3という陣形で守備をするようになっていたCSKAモスクワ。
ただ選手は人間である。機械のように、動きを狂いなく正確に繰り返すというのは難易度がかなり高く、動き続けているとどうしても陣形にズレが出てくる。


例えばこの場面。アーセナルがサイドへの揺さぶりからCBへボールを戻したところ、つまりCSKAモスクワの守備陣形が5-2-3→5-4-1→5-2-3と変化した所である。

本来、最も通されないようにしているはずであるCBからの中央レーンへの縦パスが、この場面では通せるようになっている。また、通された際に誰と誰で1-2列目間を圧縮して、ボール奪取を狙うのかというのもハッキリしていない。



よって、五角形内にパスを通され前を向かれてしまった。

そしてアーセナルには相手が最も警戒していたエリアへ侵入出来たご褒美が与えられる。



相手の重心を中央に集めた所からミドルサードでサイドに揺さぶり、前進。最後はラムジーが詰めてアーセナル先制。セカンドボールのこぼれ方等、運要素も絡んでいるけれど、それまでの試合の運び方がもたらした得点と言って良いでしょう。



・ムヒタリアンの列を下りる動き。


前半半ばあたりから、CSKAモスクワは5-4-1で引く時間が増えてくる。可変システムを使ってても守り切れないし、シャドウをそう何度も動かしてはガス欠になってしまうというのがその理由だろう。

これを見たアーセナルはムヒタリアンを相手DFのピン止め役から解放するようになる。


ライン間にポジショニングするムヒタリアン。しかし、相手は3CBシステムであり迎撃隊が用意されているのでこのエリアでパスを受けるのはとても難易度が高い。



これに対してムヒタリアンは列を下りる動きを見せる。相手のCBが離れるまで、本当にどこまでも下っていく。CSKAモスクワは完全なマンツーマンディフェンスでは無いので、付いて行ける範囲には限界がある。


よって、CSKAの守備陣はムヒタリアンを捕まえられず、ムヒタリアンが下りていった先では局地的な数的優位が作られる。
突然作られた数的優位なので、相手チームが守備基準をハッキリさせるというのはやっぱり困難である。よって、高い確率でオープンな状態(前向きフリー)を作る事が出来るだろうという計算だ。

そしてこの形で最も持ち味を発揮しやすくなるのがラムジー。ムヒタリアンのタメと空けたスペースを利用して、がんがん決定機に絡んでいた。


なお、相手がそれを警戒してラムジーへのパスルートを塞げば右ハーフスペースでエジルにスペースが与えられるようになっていた。

こうして選手各々の持ち味を発揮させられるようになったアーセナル。気が付けば4得点を奪っていた。守備面の課題やアウェーゴールを与えてしまうなどマイナス要素もあるが、快勝である。



・ひとこと

タメとスペース(深さ)を作れるムヒタリアン・エジルが揃うとラムジーが手を付けられない状態となるな〜。それだけに、やっぱりムヒタリアンの離脱が痛い。












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