【アトレティコマドリー 対 アーセナル】
アトレティコマドリーvsアーセナルの準決勝セカンドレグ。突破するには少なくとも1得点以上する必要のあるアーセナルだったが、結果はアトレティコがピシャリとアーセナルを抑えた1-0。アーセナルの敗退が決定してしまった。
今回はこの試合で、アトレティコマドリーがどのようにしてアーセナルを抑えたか、アーセナルがなぜ試合をコントロール出来なかったかについて纏めていきます。
スタメンはこちら。アーセナルはムヒタリアンが怪我明けでベンチスタート。アトレティコはヴルサリコが出場停止+ファンフランが怪我明けという事で、本職がMFのトーマス・パルティが右SBで先発しています。
・ロングボールを使った前進。
アトレティコマドリーがまず最初に見せてきたのは、ロングボールを使った前進だった。アーセナルがプレスに来ようが来まいが関係なく、ジエゴコスタに浮き玉を放っていく。
アトレティコマドリーは元々後方からの組み立てを特徴としているチームでは無い。アーセナルにアウェイゴールを許してしまうと苦しくなるという状況なので、ミスが失点に直結しやすい後ろからの繋ぎよりも、こういうアバウトなボールでジエゴコスタを暴れさせた方が得だ、というのがアトレティコマドリーの考えだろう。
空中戦に強いジエゴコスタ。その優位性は半端なかった。マッチアップの相手がコシェルニーだろうとムスタフィだろうとモンレアルだろうと関係なく、ふっ飛ばしていた。
ただ、ジエゴコスタがいくら空中戦で優位性を示せると言えど、全てのロングボールを収められる訳ではない。よって、どのくらい素早くセカンドボールに反応出来るか、守備に移る事が出来るかというのが重要になる。
この試合のアトレティコマドリーは4-2-3-1のような陣形でそれに備えていた。コスタが2CBの間からロングボールに反応する事で相手の最終ラインを押し下げる、グリーズマンとコケが2OHのようなポジショニングをとりスペースが出来るアーセナルのアンカー脇でセカンド回収を狙う、という設計だ。
また、ロングボールの精度が乱れたり、セカンドボールを拾われたりして相手にボールが渡ってしまった際は、上の図のように
- コスタ→2人のCBの間に立ち、パスルートを塞ぐ。
- グリーズマン→ジャカを捕まえる。
- コケ→外(SB)へのコースを切る。
と言ったタスクに切り替わるようになっていた。
アーセナルからするとボールを奪って「さあ攻撃だ!」という時にはもう既に近場のパスコースは塞がれているのである。更に、アトレティコの選手達はボール保持者に対してどんどん圧力を掛けていくため、配置を動かしてパスコースを作る時間も無い。
よって、アーセナルはボールが自分達のモノになったとしてもロングボールやGKへのバックパスへ逃げる事しか選択肢を得られず、スムーズに攻撃に移る事が出来ない。
このようにアトレティコは、守備を考慮した攻撃時の陣形を用意してトランジションで優位に立ち、失点のリスクをとことん下げた状態での攻撃を繰り返していた。このまま0-0で進んでも問題無いよ、1点取れれば最高だな、みたいな。
・アーセナルのビルドアップを破壊する前プレ。
アトレティコマドリーの攻守一体が計算された陣形によって、速攻を仕掛けられないアーセナル。よって、ボールを大事にして、後ろから丁寧に繋いで攻撃を組み立てようとする。
アーセナルのシステムは4-3-3。恐らく、CSKA戦で見られた図の場面のように、浮くアンカーと2CBの3人、あるいはアンカー+2CB+オスピナの4人でアトレティコの2トップに対して数的優位を確保し、前進していく計算だったのだと思う。
だが、スカウティング不足。アトレティコマドリーはこのように配置が噛み合わないチームが相手でも何の問題もなく対処出来るチームだ。この試合でもガンガンプレスを掛けて、アーセナルのビルドアップの破壊に取り組んでいた。
■2CB+アンカーのビルドアップの場合
2CB+アンカー、つまりアーセナルがGKを経由せずにビルドアップする場合のアトレティコのプレッシングについて。
まずは2トップで「1人がCBを、もう片方がアンカー(ジャカ)を抑える」という関係を作る。すると当然、アンカーを抑えている選手のサイドのCBがフリーとなる。
そこへボールが渡ると、アンカーを抑えていた選手(グリーズマン)がアンカーへのパスルートを切りながらボール保持者(ムスタフィ)へ圧力を掛ける。そして、SH(ヴィトーロ)が比較的内側に絞ったポジショニングを取る事でSH-CH-CB-SB間のスクエアへの楔を制限し、アーセナルのビルドアップをSB(ベジェリン)の所へ誘導する。
誘導通りSBへボールが渡ったこのタイミングがプレスのスイッチが入るポイント。
ヴィトーロとリュカが縦ズレでベジェリンとウェルベックを、遠い方のCHであるガビがジャカを捕まえて噛み合わせを作る事で、ベジェリンのパスの出し所を削る。
サウールと逆サイドのSHであるコケが、プレスに出た隣の選手(ヴィトーロ・ガビ)の斜め後ろにポジショニングする事で、中盤と最終ラインの間の間延びを防ぐ+プレスに出た選手が剥がされた場合のカバーをする。
デメリットとして逆サイドにスペースを与えてしまう事になるが、この状況からそこへ展開出来るSBなんてのはマルセロくらいなので、そのスペースは捨てて大丈夫。
と言った仕組みだ。図を見るとわかる通り、アトレティコマドリーのこのプレスによってベジェリンが選べそうな選択肢はほぼ全て潰されている。
また、ここでのヴィトーロ・ガビ・リュカの自分のマークを捕まえるタイミングを見てほしい。ほぼ一致している。
例えばこの場面で「ヴィトーロがベジェリンへプレスを掛けたのにガビのジャカへのプレスが遅れた」となれば、ベジェリンはジャカへパスを出すだろう。中央レーンからサイドへボールを散らす事はさほど難易度が高いプレーでは無い(展開力のあるジャカなら尚更)。よって、高い確率でスペースのある逆サイドで攻撃を仕掛けられてしまうようになる。
アトレティコにはこう言ったタイミングの乱れや隙によってピンチを招く場面が殆ど無い。状況によってどう言ったプレーをすれば良いか、パターンを仕込まれていてそれを全員が理解出来ている。よって迷い(思考時間)なくアクションを起こす事ができ、相手のボール保持者から時間を奪う事が出来るのである。
アトレティコマドリーの前プレの練度の高さが見て取れるシーンであった。
■GK+2CB+アンカーのビルドアップの場合
この試合最も多く見られた形の、アーセナルがGKを経由してビルドアップをする場合のアトレティコのプレスについて。
2トップの1人がコースを限定しながらGKにプレスをかけ、プレスサイドを決定する。
プレスサイドで2トップのもう片方がCBを、SHがSBを捕まえてGKの近場のパスコースを塞ぐ。
限定されていてボールが来ないであろうエリアは捨て、その分の人数をロングボールの回収役に回す。
基本的にGKへは、それまでボール保持者へアプローチしていた選手がそのままコースを切りながらプレスを掛ける決まりとなっていた。
そうすると、GKのオスピナは相手に引っ掛からないよう逆サイドへキックを飛ばすために、ボールの持ち替えが必要になる。よって、後ろの選手が配置を整える時間を得られ、セカンドボールの回収の精度を高められるという算段である。
ベジェリンと同じく、オスピナが選べそうな選択肢は殆ど潰されてしまっている。
これらのようにアトレティコマドリーはコース切りを活用して相手のビルドアップを自分達の守備の形が整っている方へ誘導する事でロングボールやミスを誘発し、アーセナルのビルドアップを破壊する事に成功していた。
そんなアーセナルが敵陣に侵入出来た時のパターンは主に3つ。
①アトレティコがファールを犯して敵陣内もしくは敵陣付近でFKを獲得出来たパターン。
②セカンドボールを運良くアトレティコの守備範囲外で拾えたパターン。
③↓↓の場面のようにアトレティコのコース切りを外せたパターン。
この中で再現性を得られそうなものは③である。しかし、上の動画内のムスタフィ→ウィルシャー→ジャカのラインでグリーズマンのジャカ切りを外せたシーンのようにロジカルな型通りに成立していれば良いのだが、実際にはIHのポジショニングが悪く、チェンバース→ムスタフィのシーンのような「コース切りされたまま強引にパスを通す」と言った場面が多かった。よってパスカットされる事が多く、再現性のあるボール運びは出来ていなかった。
…なのに…。お察しの通り、みんな中央に集結してしまう。アーセナルの悪い癖。— やわやわゔぇんげーる (@cbmkmcxtoia7w20) 2018年5月4日
空いている空間で起点になろうとしていたのはエジル・ジャカ・ラカゼットくらい。
90分根性で密度の高い中央の突破を狙う事に終始。究極のドM。 pic.twitter.com/J5ehPdmzOb
また、前プレを外したとしてもアトレティコマドリーの6-2-2の撤退守備の前に効果的な攻撃が出来ず、得点を期待出来そうな場面は殆ど訪れなかった。
試合の主導権を明らかにアトレティコマドリーが握っている展開。その流れ通り先制点はアトレティコマドリーに生まれる。オブラクのロングボール→セカンド回収→擬似カウンターで最後はジエゴコスタが決めるという、出来すぎな形での得点であった。
・アトレティコの定位置攻撃とアーセナルの守備の曖昧さ。
トランジション勝負と相手のビルドアップ破壊で優位に立つことによって、前半を理想的な形で終えたアトレティコマドリーだったが、それらのプレーは選手の体力の消耗が激しいプレーである。鍛えられたアトレティコマドリーの選手といえど、この過密日程の中で90分間強度を維持出来るかは微妙な所だ。
よってアトレティコマドリーは後半から、前半よりショートパスを多用した遅攻を仕掛けるようになる。
アトレティコが攻撃の起点としたのは、このアーセナルの中盤と最終ラインの間のスペース。
特徴…と言っていいのかわからないが、アーセナルは長年、「この試合は相手にボールを持たせるぞ!」というプランで臨んだ試合以外では、2列目の守備タスクが曖昧なチームである。
例えばこのように、アトレティコがSH(コレア)を内側に絞らせて空いたスペースをSB(トーマス)に使わせるという定番の攻撃を仕掛けてきた場合。
この時、アーセナルのSHであるウェルベックは、内側に絞って縦パスを打ち込まれるのを防ぐ訳でもなく、サイドを駆け上がるトーマスについて行く訳でもない、何をしたいのかが非常に曖昧なポジションをとってしまう。
よってアトレティコマドリーの攻撃に制限が掛からないので、SBのモンレアルはコレアとトーマスのどちらに対応すべきか、守備の的を絞る事が出来ない。
出足の速い守備をするために、キックフォームからパスコースを予測するモンレアル。
しかし、この試合でプレーするレベルの選手は、それをフェイクとして扱う事の出来る選手ばかり。簡単に狙い・重心を外されてしまう。
となればボール保持者へのプレスが遅れたり、最終ラインにギャップが生まれたりするのは当然の事だ。
このようにアトレティコマドリーは、中盤と最終ラインの間のスペースを攻撃の起点とする事で、アーセナルの守備の曖昧なところをさらけ出し、チャンスを作っていった。
また、アーセナルのSBが先読みしてアクションを起こした場合に、誰をどこへ流し込んでどうスペースを使うかという設計も、↓↓のようにしっかり仕込まれていた。
ベジェリン・モンレアルからするとどう足掻いても後手の対応を強いられるというかなり厳しい展開であった。
(ってかラムジー、一つ目の場面でもそうだけど、後ろの状況を全く確認してないから反転が遅いしプレスバックを全く出来てない…)
・ムヒタリアンの投入。
68分にアーセナルはムヒタリアンを投入。ポジションは右IH。怪我明けという事だったが、流石のプレーぶりだった。
ムヒタリアンが【ハーフスペースで受け手になる→大外レーンへボールが渡るとニアゾーンへランニング】というプレーを繰り返す事で、
・サウールが後退してジャカが浮く。
・ゴディンがズレてDFラインがスライドし、大外のモンレアルがフリーになる。
と言った現象が起き、アーセナルは視野リセット攻撃を仕掛けられるようになっていった。
アトレティコマドリーは前半のように、SHをSBの外に落とした6-2-2で守る手もあったと思う。しかし、終盤はその守り方をしなかった。恐らく、重心を下げすぎてゴール前でセットプレーを与えてしまう事を避けたかったか、2CHと2トップの選手のスタミナを考慮しての判断だろう。
よって、定位置攻撃の時のムヒタリアンのこの動きは効き続けた。しかし、得点は入らない。アトレティコの選手と同様にアーセナルの選手にも疲労が溜まっていてゴール前でのクロスだったりポストプレーだったりの精度が低かったからである。
試合はこのまま終了し、二戦合計2-1でアトレティコマドリーが決勝進出を決めましたとさ。
・感想。
前プレ・トランジション・撤退守備・試合の運び方。アトレティコにかなりのレベルの差を見せつけられた試合だった。その後アトレティコは無事ELチャンピオンに。おめでとうございます。来季は落ちてくんなよ!!
アーセンヴェンゲルのラストガチンコ勝負。めっちゃ時間を掛けてしまった上にめっちゃ汚い文章になってしまってすみませんでした。
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